動作解析の基礎について | 目的と手法を初心者向けに解説
動作分析は医学、心理学、工学、スポーツ科学など、多くの分野で利用されています
そのため、分析の手法や目的も多岐にわたります。
そこで本記事では、動作分析に関して目的や手法など、基礎的な部分を解説しています。
この記事を書いているのは:株式会社ノビテック
当社は光学式モーションキャプチャによる3次元動作解析システムを提供しています。
これまでシステムを販売、技術提供してきた観点から、初心者にもわかりやすいように解説します。
[目次]
動作分析とは?
そもそも何を動作分析というのか?について解説します。
動作分析の定義
動作分析とは、人や動物の動作を詳しく観察し、その特性やパターンを理解する研究方法です。
例えば、人が走るときや物を持ち上げるとき、どのような動きをするのかを詳しく調べ、より効率が良い動作を見える化することを目的としています。
また、生産現場においても、動作分析は実践されており、工程所要時間の短縮や、動作の無駄をなくし、より効率の高い作業方法を確率することを目的として使用されています。
動作の要素
動作を定量的に分析する要素のうち、いくつかわかりやすい項目を解説します。
- 速度
- 力
- 角度
- 時間・タイミング
ノビテックより:
これ以外にも、トルクやモーメントなど、力学的な知識が必要です。動作分析でデータを取得していくだけでなく、そのデータを詳しく理解する力が求められます。
速度・加速度
速度は、特定の時間内にどれだけの距離を移動したかを示します。
例えば、走る動作ではスタート直後は速度が上がり、一定速度がどのタイミングで安定するかなどが分析ができます。
また、突然の速度、加速度の変化は、怪我や効率低下の原因になる可能性があります。
スポーツにおいては、腕を振る速度やボールを蹴る際の足を振る速度、加速度などが着目点になります。
力
力は、物体に対して働く「押す」または「引く」エネルギーです。
方向と大きさが主な分析ポイントです。
力がどの方向に働いているかは、動作の効率や安全性に影響を与えます。
また、効率的に物を動かすためには、力の方向が非常に重要です。
力の大きさに関しては、必要以上に力を加えてしまうと疲労や怪我の原因となるほか、生産ラインや建築現場では、生産性低下の原因の一つとなることがあります。
角度
角度は、主に人間の関節に関して着目されることが多いです。
物を投げたり運んだりする動作では、足や腕の角度で負荷の分散度合いが異なります。
また、効率良く力を伝えるために、理想の角度を調べることで、無駄な動作をなくすことにもつながります。
時間・タイミング
動作にかかった時間や、力を加えたタイミングなどが計測のポイントです。
例えば野球では、投球モーションの短さや、ボールを離すタイミングに着目して分析ができるでしょう。
また、工業分野では、作業の効率を良くするために時間を確認することで、動作のロスを減らすことが可能です。
動作分析の目的
本項目では、動作分析がどのような目的で行われているかを解説します。
- リハビリテーション
- 工場の生産作業
- スポーツ
リハビリテーション
個人にあった治療、リハビリテーションを実施するために動作分析が行われます。
リハビリにおける動作分析は、対象の動作における問題点を「能力」と「機能の障害」に分けて明確化する過程で使用されます。
また、動作を見ることにより、故障を防ぐことにもつながります。
例:故障した箇所の機能が回復をしているかを確認するために使用します。
例えば、歩行時の膝の角度や、歩く際の速度、加速度を見ることにより、故障個所の回復度合いを確認することが可能です。
また、動作分析を行うことで、筋力や機能改善がされているかを確認し、次の治療計画を作成するために使用されています。
工場の生産作業
特定の作業についてきめ細かい改善を行うときや、短サイクル作業などの改善を行う際に使用されています。
作業中に発生する手、足、腕、目の無駄な動作をなくし、より疲れが少なく効率性の高い作業方法を確立することを目的として、分析が行われています。
1つ1つの動作はわずかな改善だとしても、生産量が多くなれば大きな改善効果が見込まれます。
また、時間短縮以外にも、作業を標準化することにより歩留まり改善や、熟練者と初心者の技術の差を減らすことにも繋がります。
例:熟練者と新人作業者の動作の違いを確認し、生産作業の教育や、将来の自動化に向けたデータを取得しています。
作業者によっての品質の違いをなくすために、動作分析が活用されています。
また、作業姿勢等を見ることにより、労働災害を未然に防ぐことが可能となり、効率のよい作業につなげることが可能です。
スポーツ
スポーツでは、選手がより高いパフォーマンスを出せるように、動作を詳しく調査します。
パフォーマンスの向上・改善や怪我の予防もこの分析によって可能になります。
アメリカのメジャーリーグMLBでは「スタットキャスト」の名称で、ドップラーレーダーとカメラを利用して選手の動きを計測するなど、研究だけでなく、実際のプレイでも活用されています。
▲スタットキャストのリアルタイム分析データ
(出典:Statcast's best and biggest home runs from July with Data Vision!! (Feat. Judge, Ohtani and MORE!)
試合中の分析を行うことで、パフォーマンスの向上・修正、最適な指示、戦術の選択が可能となっています。
動作分析の手法
本項目では、動作分析の手法について解説します。
映像から分析する方法
映像解析は、動作分析において非常に一般的な手法です。
動作を撮影し、それを見返すことでどのようなプロセスを経て動作が行われているか確認ができます。
より高度な手法として、ハイスピードカメラや動作解析ソフトウェアを用いれば、より詳細なデータを取得できます。
ハイスピードカメラを使う
ハイスピードカメラは、通常のビデオカメラよりもはるかに高いフレームレートで動画を撮影することができます。
これにより、非常に高速な動作でもその瞬間瞬間を捉えることができ、詳細な分析が可能になります。
特に、スポーツにおいて人間の目には追いきれない速さで動く物の動きを観察することに役立ちます。
スマートフォンやデジタルカメラでは一般に240fpsまでは撮影できますが、スポーツ動作を詳細に撮影するなら目安として2,000fps以上が必要です。
動作解析ソフトウェア
動作解析ソフトウェアは、撮影された映像をコンピュータ上で詳細に解析するためのツールです。
このソフトウェアを使うと、各フレームにおける位置や速度、角度などを計測することが可能です。
また、いくつかのデータを並べて、その差異や傾向を見ることができます。
解析結果はグラフやcsvで出力でき、発表資料として残すことができます。
モーションキャプチャ
モーションキャプチャは、人や物の動きを三次元空間で非常に高精度に記録する手法です。
特殊なセンサーやカメラを使用して、動きをリアルタイムまたは後で詳しく分析することができます。
研究の場面ではもっとも一般的な技術です。
モーションキャプチャでは、対象となる人物や物体にセンサーまたは光を反射するマーカーを取り付けます。
これを専用カメラで追尾し、座標データとして保存します。
上記の映像のように、人体以外にもマーカーを取り付けられる対象であればさまざまな動作分析が可能です。
三次元でのデータ算出について
モーションキャプチャは、主に三次元空間でのデータ取得が可能です。
これにより、平面的な映像解析(二次元)では捉えきれない動きも詳細にかつ簡単に記録することができます。
モーションキャプチャで得られた3次元座標データは、専用のソフトウェアで解析します。
連続する動作がどのような順序とタイミングで行われているかを数値及び時間軸上で表示と解析が可能です。
多角的な視点から見返すことができるので、動作を観察する際に非常に有効です。
特に人体の場合、各関節がどのように動いているか、動作にどのような影響を及ぼすのかを数値化が可能です。
移動量や速度が早い部分をコンターで表示すれば、視覚的にわかりやすく、動作分析に詳しくない人にもわかりやすい映像が作成できます。
また、様々なセンサーから得られたデータと組み合わせて、動作中に作用する力を算出可能です。
その動きを算出することで、シミュレーション上での筋肉の動きなどを分析することにも応用が可能です。
ノビテックより:
動作分析では、モーションキャプチャで計測するだけでなく、分析が重要です。
モーションキャプチャカメラの付属ソフトウェアだけでなく、分析したい項目に合わせて、解析ソフトウェアを選ぶ必要があります。
計測データにも取得漏れが発生することがあるため、補間や修正ができるソフトウェアがおすすめです。
センサーなどの計測器具
動作分析では、さまざまな計測器具が用いられます。
これらは、動作の特定の側面や要素をより詳細に調査するために特化しています。
以下に、主要な計測器具とその用途について説明します。
筋電計(EMG: Electromyography)
筋電計は、筋肉が活動するときに発生する微弱な電気を計測する機器です。
筋電計のデータデータから、筋肉の緊張度や活動レベルを分析することができます。
用途: スポーツでのパフォーマンス向上、リハビリテーションでの筋力回復、生産作業の作業効率化など。
分析ポイント: 筋肉がどれだけ働いているか、どの筋肉群が主に使用されているか。筋肉への負荷があるか。
フォースプレート(床反力計)
フォースプレートは、床反力と呼ばれる身体とフォースプレート間の相互作用によって発生する力を計測する機器です。
床から人が受ける力Fx(左右方向),Fy(前後方向),Fz(上下方向)と、各軸回りのモーメントMx,My,Mzを計算し、そこからさらに圧力中心(COP:center of pressure)や3次元フォースベクトル等を算出することが可能です。
用途: 走行やジャンプの分析、バランスの評価、リハビリテーションなど。
分析ポイント: 地面反力(どれだけの力で地面を押しているか。Fx、Fy、Fz)、各軸周りのモーメント(各軸周りに対しての回転しようとする力。Mx,My,Mz)、圧力中心(COP)の動き。
慣性センサ
3次元の慣性運動(直行3軸方向の並進運動および回転運動)を検出する装置です。
加速度センサで並進運動を、角速度(ジャイロ)センサにより回転運動を検出するセンサです。
加速度センサで計測した各軸の加速度を、ジャイロセンサで計測した各軸の角速度から計算した姿勢・方位角により座標変換した後に積分していくことにより、センサの速度と位置を算出することができます。
用途:航空機、船舶等の姿勢、位置の計測、人体の各部位の姿勢、速度等の計測
分析ポイント:光学式モーションキャプチャでは計測が難しい場面での活用(車内、狭小空間等)が多く、人体の姿勢、推定位置の算出。
加速度、ジャイロ、地磁気の3センサーを搭載した慣性センサーを身体各部に装着し計測したデータを元に位置情報/姿勢情報の算出。
ノビテックより:
画像や肉眼による観察や、モーションキャプチャでは取得しきれない人体のデータを取得するために、様々な計測器具が存在します。 それぞれのシステムで得意、不得意がありますので、それらを複合的に計測することが動作分析においては重要となります。
各システムでできることを明確にし、組み合わせることでより良いデータが取得できます。
まとめ
このように、動作分析は「動作」を多角的に、そして深く理解するための重要な手段です。
この分析を通じて、より効率的な動作、より負担がかからない姿勢、そしてよりパフォーマンスが高い動作を実現することが可能です。
ノビテックは、様々な用途での実績、経験がありますので、動作分析において、方法、手段等をお気軽にご相談ください。