熱電対の種類から使い方、注意点まで徹底解説
熱電対とは、2種類の金属線の先端を接触させることで回路を作り、その接合点の熱起電力から温度差を測定する温度センサのことで、主に工業用に使われます。
この回路自体が熱電対であり、温度センサを構成する金属線を指すこともあります。
熱電対には、高温でも低温でも使用でき、寿命が長く、耐熱性が高いという特長があり、産業や工業、医療、軍事などで幅広く活用されています。
本コラムでは、熱電対の概要や選び方、使い方、注意点などをご紹介いたします。
目次(クリックしてジャンプ)
熱電対とは
熱電対とは、2種類の金属線の先端を接触させることでできる回路、または、これによりできる温度計(温度センサ)のことです。
温度センサを構成する金属線を指すこともあります。
熱電対の長所は、比較的、低コストであること、計測範囲が広いこと、互換性があることなどです。
一方、短所は、高精度な測定はできないこと(誤差は±0.2%程度)と、基準接点補償が必要なこと、測定雰囲気によっては劣化したり使用できる熱電対の種類に制約があったりすることです。
熱電対の構造
熱電対のセンサは、2種類の金属線の先端を接触させて回路を作り、この2つの金属の間に温度差を与えると(電圧)が生じるという現象を利用しています。
この現象は、ドイツの科学者であるゼーベック(T.J.Seebeck)氏が1821年に発見したものです。
ここから「ゼーベック効果」と呼ばれています。
温度が計測できる仕組み
熱電対での温度の計測は、2種類の金属間に生じた電圧を測定することで求めます。
基準接点(冷接点)が0℃であれば、測温接点をそのまま読み取ることで温度を測定できますが、測定中ずっと0℃に維持することは困難です。
そこで、0℃を基準とする熱起電力を加算して温度を求めます。
熱電対の種類
熱電対は、貴金属熱電対と卑金属熱電対に分けられます。
貴金属熱電対
貴金属熱電対とは、白金やロジウムのような融点の高い金属が含まれる熱電対のことで、+1,000°C以上の測定に使用されます。
貴金属熱電対には、B、R、Sの3種類があります。
記号 | 主な構成材料 | 使用温度(℃) | 特徴 | ||
+脚 | -脚 | 常用限度 | 加熱限度 | ||
B | Pt70、Rh30 | Pt94、Rh6 | 1,500 | 1,700 | 熱起電力が極めて低い。JIS規格品では最も高温測定に向く。 |
R | Pt87、Rh13 | Pt100 | 1,400 | 1,600 | 最高温に対応し、還元雰囲気のみで使用できるが、JIS規格外。 |
S | Pt90、Rh10 | Pt100 | 1,400 | 1,600 | ばらつきや劣化が少ない。熱起電力が低く、高温測定に向く。 |
卑金属熱電対
卑金属熱電対とは、銅やニッケルといった融点の低い金属が含まれる熱電対のことで、低温の測定に使用されます。
貴金属熱電対には、N、K、E、J、Tの5種類があります。
記号 | 主な構成材料 | 使用温度(℃) | 特徴 | ||
+脚 | -脚 | 常用限度 | 加熱限度 | ||
N | Ni、Cr、Si | Ni、Si | 1,200 | 1,250 | 広範囲の温度にわたり熱起電力が安定。 |
K | Ni、Si | Ni、Al | 1,000 | 1,200 | 熱起電力の直線性が良く、最も流通量が多い。 |
E | Ni、Cr | Ni、Cu | 700 | 800 | 熱起電力が最も大きく、流通量は少ない。 |
J | Fe | Ni、Cu | 600 | 750 | E熱電対に次ぐ起電力の大きさ。錆びやすい。 |
T | Cu | Ni、Cu | 300 | 350 | 低温測定に向く。熱伝導誤差が大きい。 |
熱電対の三法則とは
熱電対の動作原理には「熱電対の三法則」と呼ばれる基本的な法則があります。この法則を理解することで、熱電対がどのように温度を測定しているかを、より深く理解することができます。
均質回路の法則
「均質回路の法則」とは、同じ材料でできた回路の中で、温度差がない限り熱起電力は発生しないという法則です。これは、温度差が生じることでのみ起電力が発生し、その差に基づいて温度が測定されることを示しています。つまり、均一な温度環境にある限り、金属は電気的な変化を示さないという性質を持ちます。
中間金属の法則
「中間金属の法則」は、熱電対の回路に別の金属(中間金属)を挿入しても、その接点が同じ温度にある限り、全体の起電力には影響しないという法則です。これにより、計測システムに接続する際、異なる金属で構成された計測機器や端子を使用しても、温度差がなければ測定結果に影響を与えないことがわかります。
中間温度の法則
「中間温度の法則」とは、温度Aと温度Bの間の起電力が既知の場合、その間に別の温度Cを設けると、A-C間とC-B間の起電力をそれぞれ足し合わせることでA-B間の起電力を求めることができるという法則です。この法則は、複雑な温度環境での熱電対の利用を容易にし、異なる温度間での計測結果を確実に得るための基盤となっています。
熱電対は何に使われている?
熱電対は、主に次の3つの用途で使用されています。
製造プロセスの温度監視
熱電対は、製造プロセスの温度監視において広く使用されています。
温度計測のほか、炉や加熱装置の制御などに利用されています。
高温環境においても頑強で信頼性が高く、広範囲な温度範囲で使用できるという熱電対の特長が活かされています。
機械の性能評価
熱電対は、機械やシステムの熱効率を評価するためにも使用されています。
たとえば、エンジンやボイラーといった燃焼装置の熱効率を、熱電対を用いて評価し、エネルギーの無駄な損失や効率の改善点を特定することができます。
また、エンジンや電子機器といった冷却装置の冷却性能を評価し、冷却システムの設計や効率の向上につなげることもできます。
機械だけでなく材料の耐熱性評価なども可能です。
食品製造のオーブン
熱電対は、食品製造のオーブンにおいても重要な役割を果たしています。
たとえば、オーブン内部の温度を正確に計測するために使用されたり、オーブンのヒーターやサーモスタットなどの制御機構を調整するのに使用されたり、異常な高温を検知してシャットダウンするという安全装置に使用されたりしています。
熱電対の選び方
「熱電対の種類」でご紹介したように、主な熱電対は8種類あります。
この中から用途に合った最適な熱電対を選ぶ際は、「対応する温度」「応答速度」「計測精度」の3点をポイントに比較検討しましょう。
対応する温度で選ぶ
まずは、測定したい温度から判断しましょう。
1,000℃を超えるような高温では、貴金属熱電対を使う必要があり、特に、BはRやSでは測定できない高温でも使用できます。
逆に、低温領域を測定したい場合は、Tが適しています。
応答速度で選ぶ
上記8種類の熱電対のうち、応答速度が速いものはKとNです。
KとNでは、対応温度が大きく異なるため、応答速度が求められる用途であり、かつ対応温度で選定した後の候補の中にKかNがあれば、いずれかから選ぶと良いでしょう。
ただし、応答速度は熱電対の構造や材料の影響を受けます。
環境や要件によって変わってくる場合もあるため、メーカーが提供する詳細な仕様を参考に選ぶ必要があります。
計測精度で選ぶ
熱電対の中にも、計測精度が比較的、高いものと、低いものがあります。
Rは、ばらつきや劣化がすくなく、精度が高いです。
ただ、JIS規格外なので、高精度が求められないようなら、まずは標準的なKから検討し始めます。
対応温度や応答速度の条件を満たす熱電対が複数あった場合は、計測精度を比べて選びましょう。
熱電対の使い方の手順
熱電対を使って温度を測定するには、いくつかの手順が必要です。手順ごとに詳しく見ていきましょう。
1.熱電対の種類を確認する
まず、熱電対には、使用されている金属の種類によっていくつかの種類があります。使用する熱電対の種類によって、測定可能な温度範囲や精度が異なります。そのため、測定対象の温度や測定精度に合わせて適切な種類の熱電対を選ぶことが重要です。
2.測定対象に熱電対を接触させる
まずは、測定したい対象物に熱電対の先端を接触させます。この時、熱電対の先端が対象物にしっかりと密着していることが重要です。密着度が低いと、正確な温度を測定することができません。また、熱電対の取り付け位置がズレることで温度差が出てしまいます。中心部からできるだけズレないように注意しながら設置しましょう。
3.温度-電圧変換表または変換器を使用する
熱電対で発生する電圧は、温度に対して非常に小さいため、そのままでは温度として読み取ることができません。そこで、温度-電圧変換表または変換器を用いて、熱電対が発生する電圧を温度に変換する必要があります。
4.コールドジャンクション補償を行う
熱電対は、2つの接点の温度差によって電圧が発生します。そのため、測定対象の温度だけでなく、熱電対を接続する機器側の温度(コールドジャンクション温度)も測定値に影響を与えます。正確な温度を測定するためには、このコールドジャンクション温度の影響を補正する「コールドジャンクション補償」を行う必要があります。
熱電対の校正とは
熱電対を正確に使用するためには、定期的な校正が必要です。校正とは、測定器が正確な値を示すかどうかを確認し、必要に応じて調整する作業のことです。
校正の重要性
校正は、熱電対を使用する際の精度を保つために不可欠です。特に製造業や医療業界では、温度測定の精度が製品やプロセスの品質に大きく影響するため、校正は非常に重要です。校正を怠ると、不正確な温度測定が原因で製品の品質低下や安全性の問題が生じるリスクがあります。
校正の方法
比較校正
校正済みの基準となる熱電対と比較して、使用中の熱電対の測定値を確認する方法です。両方の熱電対を同じ温度環境に置き、それぞれの測定値を比較して誤差を確認します。
基準温度校正
水の沸点(100℃)や氷点(0℃)など、物理的に決まった基準温度を使用して、測定結果が基準温度に一致するかを確認する方法です。この方法は簡便で、一般的に使われています。
校正頻度
校正の頻度は、熱電対の使用環境や使用頻度に応じて決定されます。高温環境や化学的な影響を受けやすい場所で使用される場合、より頻繁な校正が必要です。一般的な指標として、年に1から2回の校正が推奨されていますが、使用状況に応じて適宜判断することが重要です。
熱電対の注意点
熱電対を選んだり使用したりする際には、次の3点に注意しましょう。
測定対象物の温度範囲に合った熱電対を選ぶ
「熱電対の種類」でご紹介したように、熱電対は種類によって使用可能な温度が異なります。
当然ながら、範囲外の温度は測定できません。
各熱電対の温度範囲を確認した上で、温度範囲に合った熱電対を選ぶことが前提となります。
熱電対の校正を行う
熱電対で正確な計測を行うためには、定期的な検査と校正が重要です。
専用の校正機器を用意し、熱電対メーカーが推奨する手順に沿って定期的に校正を行いましょう。
さらに補正値を計算し、補正を行います。
校正の結果や補正値、実施日といった校正データは、記録・保管しておきましょう。
正しく設置する
熱電対を活用して正しく温度を計測するには、熱電対を正しく設置することが重要です。
できるだけ、測定対象の近くに設置し、周囲の環境からの干渉や外部の熱源からの影響を最小限に抑えるために、絶縁材料や熱電対保護チューブを使用して、しっかり絶縁と保護を行いましょう。
また、結合と接続も確実に行う必要があります。
まとめ
熱電対は、主な構成材料となっている金属によって、種類が異なります。
主に利用されている熱電対には、B、R、S、N、K、E、J、Tの8種類があり、それぞれ、測定可能な温度範囲を始め、精度や費用などが異なってきます。
利用の際は、測定対象物の温度範囲に合った熱電対を選んだ上で、正しく設置し、定期的に校正を行うことが大切です。
熱電対メーカーの提供情報も参考にしながら、用途や利用環境に合った適切な熱電対を選んで活用しましょう。