サーモグラフィーとは?メリット・デメリット、実際の活用シーンについての紹介!
非接触で温度計測ができる手法がサーモグラフィーです。
そもそも何がサーモグラフィーで、どんなものなのかが分からない人も多いのではないでしょうか。
本記事では、サーモグラフィーとは何か、その原理と特徴を解説します。
サーモグラフィーとは?
サーモグラフィーとは、熱を図化することを差します。
熱の分布を2次元で表すことにより、熱のムラ、温度変化を計測します。
一般的には、赤外領域に感度を持つイメージセンサーを使用してその2次元画像の温度分布を計測するカメラをサーモグラフィーカメラと呼びます。
サーモグラフィーは、電気・電子、建築、機械、自動車、航空宇宙などの分野で幅広く利用されています。
たとえば、電気・電子分野では、不良箇所の温度上昇を検知することができるため、故障箇所の早期発見や品質管理に役立ちます。
また、建築分野では、断熱性能の評価や冷暖房設備の効率化などに活用されます。
また、サーモグラフィーは、非接触かつリアルタイムに温度分布を測定することができるため、熱的なプロセスの観察や解析にも適しています。
さらに、赤外線による温度計測は、可視光線を用いた方法と比べて、暗い場所や深い穴、遠くの場所など、一般的な手法では測定が困難な箇所でも測定が可能であるため、幅広い応用が期待されています。
スポット式放射温度計とサーモグラフィーカメラの違いとは?
サーモグラフィーカメラと合わせてよく聞くのがスポット式放射温度計です。
熱の放射をとらえて温度に換算するという原理は、スポット式放射温度計もサーモグラフィーカメラも同じです。
そういう意味では、サーモグラフィーカメラも放射温度計の1つと言うことができます。
大きな違いは、スポット式放射温度計はその名の通り点の温度計測しかできないのに対して、サーモグラフィーカメラはイメージセンサーのすべての画素ごとに温度を計測し、2次元の温度分布が計測できる点です。
サーモグラフィーカメラの利点
サーモグラフィーカメラの利点は、非接触で温度を分布で得ることができることです。
熱電対のように計測対象に接触させる必要もなければ、スポット式放射温度計のように点ではなく面の温度分布が計測できます。
発熱体から距離を離すことができるので、特に工業分野のように数百度を超える高温を計測する場合、作業者の安全につながります。
サーモグラフィーの「放射率」とは?
前述した通り、サーモグラフィーカメラは熱の放射強度を測定して温度に換算します。
温度と熱の放射には相関関係がありプランクの放射測で求めることができますが、現実的にはそこに放射率が介在します。
放射率とは物体が熱放射で放出するエネルギーを、同温の黒体が放出するエネルギー(黒体放射)を1としたときの比となり、0以上1以下の値です。
サーモグラフィーカメラは熱の放射強度を測定し、温度に換算するとき、この放射率による補正を行う必要があります。
つまり、放射率を入力することで計測している物体の熱放射エネルギーを黒体の熱放射エネルギーに換算し、温度校正時に作成した温度と黒体の熱放射エネルギーの値をもとに温度を計算しているのです。
ただし、放射率は物質や表面状態・形状、計測する波長や温度によって異なるため、正確な値を把握するのは極めて困難です。
また、一般的なサーモグラフィーカメラは計測波長として赤外線(主に8-14μm)を使用しています。
赤外線を使用する利点は、低温(0℃や氷点下)からの温度が計測できるという点ですが、半面赤外線は一般的なガラスや石英は8-14μmの波長を通さないため、このような材質の観察窓越しの計測は行えません。
放射率は状態や表面状態に左右される
前述のとおり、放射率はその材質に大きく左右されます。
たとえば表面が鏡面状態である金属の放射率は0.01から0.1くらいで、セラミックなどは0.95くらいです。
研磨してある、荒い状態、酸化しているなどの表面状態によっても放射率は変化します。
このような理由から、現実的にサーモグラフィーカメラで温度を計測する場合は、熱電対などの接触式温度計で計測対象の温度を実測し、サーモグラフィーカメラで計測した温度が接触式温度計と一致するような放射率を入力して温度を算出します。
しかしながら、計測対象の昇温によって表面が酸化したり、液相から固相に相転移したときなどは放射率が変化するので正確な温度測定は困難です。
放射率は距離や角度で変わってしまう
計測対象面に対してサーモグラフィーカメラが垂直に向いているか、角度が付いているか、または計測対象とサーモグラフィーカメラとの距離によっても放射率は異なります。
計測対象が歪曲していても影響があります。
そして、対象の温度や計測する波長によっても放射率は異なります。
そのため、サーモグラフィーカメラはある程度一定の距離で測る場合はよいですが、回転したり湾曲している物体では正確な計測ができません。
サーモグラフィーの活用シーンについて
最も馴染みのある用途としては、体温測定が挙げられます。
その他、住宅診断として雨漏りや断熱材の確認、設備診断としてソーラーパネルや配電盤・分電盤の点検、工業分野として工業製品の加熱ムラや異物混入の確認、その他各種研究開発などに使用されます。
サーモグラフィーの主な用途
- 体温計測(人体)
- 外壁や雨漏り診断(建築)
- 素材加熱の状態監視(工業)
- 機械の発熱検査(保安保全)
体温計測(人体)
適切な距離と使用法が必要ですが、サーモビューワは正確性が高いことが特徴です。また、非接触で簡単に測定できるため、速い測定が可能です。特に、複数人の体温を短時間で測定する必要がある場合に最適です。
使いやすさもサーモグラフィーのメリットの一つです。特別なトレーニングが必要なく、正しく使用すれば簡単かつ迅速に体温を測定することができます。
また、衛生面についても非常に重要なポイントです。サーモグラフィーは、非接触で測定するため、感染症の拡大を防ぐために非常に有効です。
外壁や雨漏り診断(建築)
建物の屋根や壁などから漏れた水が表面を滑りやすくしていることにより、表面の温度が低くなるため、雨漏りが発生している部分を検知することができます。
これにより、雨漏りが進行しないよう早期に対処することができ、建物の損傷を防ぐことができます。
また、サーモビューワは、建物や構造物の外壁を測定するためにも使用されます。
外壁の温度を正確に測定することで、建物内部の熱の逃げや熱の侵入を防ぎ、建物のエネルギー効率を向上させることができます。
外壁を測定する際には、適切な距離と角度を保つことが重要です。また、周囲の環境条件(風速、湿度、日射など)に注意が必要です。
また、建物や構造物の外壁は、素材や色などの特性によって温度分布に違いが生じるため、測定時には正確な校正が必要です。
正確な校正を行わない場合、測定値が偏ってしまい、正確な判断ができなくなってしまいます。
以上のことから、外壁を測定する際には、正確性と信頼性を確保するために、専門的な知識と経験が必要です。
また、正確な測定結果を得るためには、適切な測定機器を使用することが不可欠で、人体用のサーモビューワよりも価格が高い傾向にあります。
素材加熱の状態監視(工業)
サーモビューアは、熱処理プロセスを監視するために使用されます。
熱処理とは、金属やその他の素材を高温環境下で加工することを指します。
サーモビューアは、熱処理プロセスにおいて素材を加熱する状態を監視するためにも使用されます。
熱処理プロセスの測定においては、サーモビューワを使用することで、温度分布の調査や、温度変化の追跡、温度制御の最適化が可能になります。
しかし、サーモビューワを使用する際には、以下のポイントを抑える必要があります。
まず、測定の精度を確保するために、測定前には適切な校正を行う必要があります。また、測定機器の選定にも注意が必要で、高精度で信頼性のある機器を使用することが求められます。
さらに、熱処理プロセスにおいては、高温・高圧などの過酷な条件下での測定が必要となるため、測定機器の耐久性も重要です。
燃焼ガスや高温、金属蒸気などの影響が出ることがあるため、測定時には周囲の環境条件も考慮する必要があります。
機械の発熱検査(保安保全)
サーモビューアは機械や電子部品の発熱検査に使用されます。
サーモビューアは、直接接触することなく、該当部品の表面温度を測定することができます。
これにより、発熱している部品を早期に発見し、適切な対処を行うことができます。
注意点として、測定対象の部品や機器の熱容量や放熱特性などを把握することが重要です。
どこが熱くなるのか、どこを見るべきなのかを事前に把握しておくことで、適切な測定方法を選定することができます。
サーモビューワの解像度や精度にも注意が必要です。
高精度な機器を使用することで、より正確な測定結果を得ることができます。
また、測定範囲に合わせた解像度を選定することも重要です。
測定結果を正確に把握するためには、経験や知識が必要となるでしょう。
当社製品:2色式温度計測 Thermera
本項目では、ノビテックが取り扱う温度計測カメラ「Thermera(サーメラ)」について紹介します。
Thermeraは既存のサーモビューワの課題を二色式というアルゴリズムで解決した温度計測カメラです。
スペック・仕様
計測アルゴリズム | 二色式 |
計測温度レンジ | 300~2500℃(機種による) |
撮影速度 | ~100fps(機種による) |
画角 | Fマウントレンズで自由に変更可能 |
放射率補正 | 不要 |
ガラス越し | 可能 |
サーモグラフィーとの違い
Thermeraは、サーモグラフィと違う点がいくつかあります。
- 放射率補正が不要なアルゴリズム「2色法」を採用
- ガラス越しでの計測が可能
放射率補正が不要なアルゴリズム「2色法」を採用
Thermeraは、温度分布を2次元で計測できるという意味ではサーモグラフィーカメラと言えます。
ただし、その測定原理は大きく異なります。
一般的な赤外線サーモグラフィーは熱の放射強度を測定し、放射率による補正を経て温度に換算します。
それに対しThermeraは2色法というアルゴリズムを使用して温度に換算します。
前述のとおり、温度と熱放射エネルギーには相関があります。
それをグラフで示したものが下図になります。
このように、熱放射曲線は温度によって全て異なります。
つまり、熱放射エネルギーを元にこの曲線のどれにあたるのか計測をすれば、温度を知ることができます。
しかし、計測対象はそれぞれ固有の放射率を有するので、熱放射エネルギーは黒体より小さいものになります。
分かりやすく1400℃の曲線を例にします。
Thermeraでは、計測対象が黒体の熱放射曲線のどれにあたるのか特定するために、ある温度の「波長1と波長2」2つの波長における熱放射エネルギーを測定し、その「比」を算出します。
算出された「比」の値は、黒体の各温度に対して1つしか該当しないので、これにより熱放射曲線を特定でき、温度を知ることができます。
Thermeraでは2次元画像センサーの全画素においてこの2色式で計算し、放射率の補正なしで正確な温度を算出します。
ガラス越しでの計測が可能
Thermeraの赤外サーモグラフィーと異なるもう1つの点は、計測波長です。
Thermeraは可視から近赤外の赤外サーモグラフィーよりも短い波長を使用しています。
その波長はガラスや石英を透過するので、そのような材質の観察窓越しの計測が可能です。
もしサーモグラフィーでガラス越しに温度計測を行おうとすると、ガラスが放射を吸収してしまうため正しく計測ができません。
Thermeraの用途
主に金属加工、半導体製造、セラミック加工、ガラス加工、燃焼などに使用されています。
具体的には、高温加熱された金属材料の温度分布、溶接の溶融池・溶接棒の温度分布、燃焼火炎の温度分布、溶融・精製状態の半導体の温度分布等になります。
まとめ
本記事では、サーモグラフィーについての基礎と、その課題、課題に対応した温度計測カメラを紹介しました。
本記事をまとめると、以下の4つです。
- サーモグラフィーは、熱を図化すること
- 正確な温度計測をするには「放射率」が重要
- ガラス越しで計測できない、放射率補正が必要という課題がある
- 二色式温度計測カメラThermeraであればそれらの課題は解決できる
ノビテックでは今回紹介したThermeraを取り扱っています。
詳細は下記よりご覧ください。