金属粉末製造の主要な手法であるアトマイズ(霧化)プロセスにおいて、溶融金属を細かく噴霧し、高品質な粉末を得るためには、溶湯(ようとう)の温度管理が極めて重要です。
特に、溶湯がノズルからアトマイズチャンバーへ落下し、高速ガスジェットに晒される直前の挙動と温度の冷却過程は、粉末の粒度分布や品質を大きく左右します。
本事例では、カラーハイスピードカメラと、放射率補正が不要な二色式温度計測ソフトウェア「Thermera(サーメラ)」を組み合わせることで、約1300℃に熱された溶湯の「落下」現象を可視化し、その瞬間の二次元温度分布を正確に解析した事例をご紹介します。
課題:アトマイズ品質を左右する「供給溶湯」の熱的挙動
アトマイズプロセスにおける計測には、以下の技術的課題と要求がありました。
1. 高速現象の捕捉
溶湯がノズルから流出し、落下する挙動は高速であり、基板上での濡れ性の考察や流れの不安定性を捉えるために高フレームレートが必須でした。
2. 超高温帯での正確性
約1300℃という高温環境であり、炉内の観察窓越しに非接触で正確な温度を計測する必要がありました。
3. 放射率の影響排除
溶湯の表面は、酸化や流れの形状変化により放射率が刻々と変化するため、従来の単色式サーモグラフィでは正確な温度が得られず、放射率の影響を受けない計測手法が求められました。
解決策:ハイスピード撮影と二色法による温度解析
この課題に対し、小型カラーハイスピードカメラ及び二色式温度計測ソフトウェア「サーメラ」で計測しました。
1. カラーハイスピードカメラによる可視化
溶湯の流出・落下挙動全体を詳細に捉えるため、小型カラーハイスピードカメラPhantomMiroC321を使用し、1,000fpsで撮影しました。
これにより、溶湯がノズルから離れる瞬間の挙動や、液面の揺らぎ、濡れ性確認といった動態を1ミリ秒間隔で動画として記録しました。
2. 二色式温度計測ソフトウェア「Thermera(サーメラ)」
記録されたハイスピード動画の画像データに対して、二色式温度計測ソフトウェア「Thermera(サーメラ)」を用いて溶湯の冷却工程を観察しました。
サーメラは、物体から放射される光のうち、2つの異なる波長における放射エネルギーの比率を利用する二色法を採用しています。
このアルゴリズムにより、放射率が不均一な溶湯表面でも、その影響をキャンセルし、高精度な温度分布の算出を実現しました。
また、計測波長が可視光域から近赤外域であるため、炉の観察窓(ガラス)越しでも、高い精度で温度計測を行うことが可能です。
解析結果:溶湯の安定性と温度勾配の定量化
解析の結果、アトマイズ工程の品質を向上させるための重要な知見が得られました。
1. 落下溶湯の「安定度」と「温度分布」の相関解析
高速動画と温度分布を重ね合わせることで、溶湯が安定して落下している部分と、液滴が分離し始める不安定な部分とで、表面温度分布の均一性がどのように異なるかを二次元で把握できました。
なお、材料に映っている中心の強発光部分は、吹き出し口の発光の影響を受けており、正しい温度計測とはなっていません。
2. ノズル近傍の熱変動解析
ノズルの出口直下を指定し、溶湯の流出に伴う局所的な温度変化を時系列データ(CSV)としても抽出できます。
これにより、ノズルからの熱伝導や、空気接触による冷却が、どの程度の速度と幅で生じているかを精密に把握し、設計条件や運転条件の最適化にも役立ちます。
まとめ:アトマイズプロセスへの貢献
本事例では、ハイスピードカメラによる高速動態の可視化と、Thermeraによる放射率影響の排除という技術の組み合わせにより、アトマイズの鍵となる溶湯供給工程の熱的・動的挙動を深く理解することができました。
得られた温度分布と挙動のデータは、安定した粒度分布を持つ高品質な金属粉末を製造するためのノズル形状、温度設定、および流量条件の最適化に直結するものであり、アトマイズプロセス全体の再現性向上とコスト削減に大きく貢献しています。







