ひずみ解析システム DIC(デジタル画像相関法)
ひずみ解析 DIC(デジタル画像相関法)とは?
DIC(Digital Image Correlation:デジタル画像相関法)解析とは、デジタルカメラで撮影した変形前後の画像を使用し、ひずみを可視化解析する手法です。
一般的なひずみ計測に使用されるひずみゲージと異なり、非接触で計測可能になります。
DICによる解析は新製品の開発や、落下・衝撃・引張による耐久性の試験など様々な研究で活用されています。
DICで画像からひずみを算出する原理
DIC(Digital Image Correlation)は、デジタル画像相関法と呼ばれる画像解析手法です。
計測対象物の表面にスプレー塗料でスペックルパターンと呼ばれるランダムなパターンを塗布し、変形を産業用カメラやハイスピードカメラで撮影します。
パターンがどのように変化したのかを画像相関によって調べ、その変化量からひずみ量を算出します。
従来のひずみ計測手法との違い
従来のひずみ計測に用いられてきたひずみゲージと比べると、DICは非接触かつ面で計測できることが最大の違いです。
ひずみの分布がカラーコンターで表示されるため、CAEと照らし合わせることでシミュレーションとの差異を簡単に比較できます。
カメラで撮影するため、複雑な形状や大きな構造物のひずみ分布を一度に可視化することができます。
また、接着剤や配線が不要なため、計測対象を傷つけることなく繰り返し計測が可能です。
ひずみ解析DICの利点・欠点
ひずみ解析にDICを用いることの利点や欠点は以下のとおりです。
◎ 利点
- 非接触で計測ができる
- 面で計測できる
- 再現性がある
- 3次元での計測も可能
△ 欠点
- スペックルパターンを塗布する必要がある
- カメラ性能や撮影画像の良し悪しに結果が左右される
- カメラに写らない部分は計測ができない
デジタルカメラ
現象の速度や空間分解能に応じて選定します。
1ピクセルあたり細かい面積で撮影したい場合には産業用カメラ、破断や衝突などの高速な現象を計測する場合はハイスピードカメラが必要です。
撮影時の解像度が高いほど細かく相関を見られるため、解析精度が高まります。
視野はレンズによって変更可能なので、数ミリの被写体からメートル単位の構造物まで幅広く計測が可能です。
ひずみ解析ソフトウェア Mercury RT
デジタルカメラで撮影した画像を処理するのがひずみ解析ソフトウェアです。
変形前後の画像を使用しパターン群の変形を捜索、演算解析を行い、ひずみを可視化解析します。
解析したデータはcsv、動画、画像で出力可能です。
解析用PC
ひずみ解析ソフトウェアを動かすPCが必要になります。
【推奨スペック】
CPU:Intel Core i7 以上
メモリ:32GB 以上
グラフィックボード:NVIDIA GeForce GTX1650 4GB 以上
ひずみ解析DICの撮影から解析までの流れ
本項目では、当社取扱のハイスピードカメラPhantomを用いて、ヘルメットを叩く瞬間のひずみを例に流れを解説します。
ほかのDICでも基本的には以下の流れでDICを行います。
- 計測対象にスペックルパターンを塗布する
- ハイスピードカメラで変形の様子を撮影する
- ひずみ解析ソフトウェアで変形前後の画像を解析する
①ひずみの計測対象にスペックルパターンを塗布する
上の画像では、スプレーを使用してスペックルパターンを塗布しています。
粒子を均一に塗布するために、エアブラシ等を使うこともあります。
光沢がある物体では、その部分が白飛びしたり反射することを避けるためにスプレーでマットなベースを塗ってからスペックルパターンを塗布します。
②ハイスピードカメラで変形の様子を撮影する
次は変形の様子の撮影です。当社取り扱いのひずみ解析ソフトウェア「MercuryRT」では、カメラの制御から解析まで一貫して行えます。
撮影時のポイントとして、スペックルパターンのエッジを捉えるためにピントを合わせます。
変形速度に応じた適切なフレームレートを設定し、ブレのないよう撮影を行います。
また、撮影の際には、物体が動いたときに影ができないように、均一に照明を照射し、狭小エリアであればリング型の照明を用いたり、大きな物体であれば多方面から照明を当てることで影を減らします。
③ひずみ解析ソフトウェアで変形前後の画像を解析する
撮影した画像をDICソフトウェアで解析します。
解析エリアやパラメータを設定します。解析を実行し、見たい解析項目を指定し、グラフや画像の重ね合わせ結果を確認します。
本撮影ではカメラ2台のステレオで計測したので、ひずみを立体的に解析できました。
CAEと同じように様々な角度から見られるので、奥行き情報を含む立体的な現象を解析したい場合に最適です。
引張試験や平面部分のひずみを解析したい場合には、カメラ1台によるひずみ解析を行います。
解析した映像は以下のとおりです。
画素数
高解像度なカメラを使用することで、微小な変形も解析することが可能になります。
以下の画像は、940万画素と100万画素のカメラで比較したものです。
特にヘッドランプの内側の細かい部分や、ランプとフレームのエッジがなめらかに出ていることがわかります。
撮影速度(フレームレート)
現象の速度によって必要な撮影速度が異なります。
一般的な引っ張り試験など、数十秒~数分の単位でおこなう試験の場合は、産業用カメラを用います。
破断や落下の瞬間など、瞬間的な変形を伴う現象を計測する場合には高い撮影速度を持つハイスピードカメラが必要になります。
自由落下や衝突、引張試験による破断時のひずみは非常に高速であり、比較的柔らかいゴムなどの軟質材で数千~数万コマ/秒、金属やカーボンなどの硬質では数十万コマ/秒程度での撮影が必要になります。
また、ハイスピードカメラは露光時間も細く設定できるので、ブレのない映像を撮影することができます。
画質
DIC解析では輝度情報が重要になるため、ノイズが少ないカメラを使うことが重要です。
低ノイズなセンサーを搭載したカメラを使用することでノイズによる誤ベクトルの検出を抑えることができ、高精度な解析を行えます。
カメラスペックで見るべきポイントは以下です。
・ダイナミックレンジ(白から黒までの階調。広いほうが良い)
・ダークノイズ(暗いところのノイズ。少ないほうが良い)
当社取り扱いのハイスピードカメラや産業用カメラでは、これらの値がEMVA1288という規格で数値化されており、最適なカメラをご提供します。
スペックルパターンの塗布
DICでは特徴点となる模様(スペックルパターン)をもとに解析するため、試験体に模様をつける必要になります。
スプレーで塗布するのが一般的ですが、そのほかにもチョークやスタンプなど様々な方法で模様をつけます。
▲スペックルパターンを塗布した金属表面。
反射を抑えるためにまず白地で塗り、その上に黒のスプレーを塗布している。
2次元・3次元DICの選択
2次元で解析する場合はカメラ1台で撮影と解析を行います。カメラを2台使用することで3次元解析(ステレオDIC)が可能になります。
立体的な試験体や、奥行き情報が必要な変形を計測する場合には3次元解析が必要です。
3次元で計測する際は、カメラの位置関係をキャリブレーションする「キャリブレーションボード」が必要です。
解析項目
DICでは、一般に以下の項目を解析できます。
- 最大主ひずみ
- 最小主ひずみ
- 一軸方向ひずみ(εxx,εyy,εxy)
- ポアソン比
- せん断ひずみ
などの項目があります。
当社取り扱いのひずみ解析ソフトウェアMercuryでは以下のような解析が可能です。
解析項目一覧(クリックでひらく)
解析項目 | 内容 |
Displacement[mm] | 変位 |
Displacement in X[mm] | 変位X |
Displacement in Y[mm] | 変位Y |
Strain E1[-] | 最大主ひずみ |
Strain E2[-] | 最小主ひずみ |
Strain EXX[-] | 一軸方向ひずみX |
Strain EYY[-] | 一軸方向ひずみY |
Strain EXY[-] | せん断ひずみ |
Strain E1 Rate[-/s] | 最大主ひずみ速度 |
Strain E2 Rate[-/s] | 最小主ひずみ速度 |
StDev[mm] | 標準偏差 |
StDev in X[mm] | 標準偏差X |
StDev in Y[mm] | 標準偏差Y |
ひずみ解析DICのよくある質問
Q
A
ひずみ解析DICを行うメリットは主に3つあります。
1つめは、ひずみゲージと違い、面で計測できる点です。これにより、全体の変形が一度に可視化できます。また、計測データをCAEと比較ができるためシミュレーションとの当て込みが容易な点です。
カメラで撮影するため非接触計測が可能なこともメリットとして挙げられます。
Q
DICで取得した解析データはCAEと比較できますか?
A
面計測であるため、CAEでのシミュレーションと実験でのデータを比較することが可能です。
また、STLファイルなどCAEソフトウェアに読み込み可能な形式で出力も可能です。
Q
解析精度はどのくらいですか?
A
100μS(マイクロストレイン)程度です。(撮影対象や計測条件により異なります)
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